CUEオンライン

グルメ、音楽、お出かけ情報など旬の広島ネタが満載

CONTACT
エンタメ

芥川賞作家小山田浩子さんの思い、日常

 芥川賞作家の小山田浩子さん(広島市佐伯区)がこの春、初の短編集「庭」を出版しました。受賞作の「穴」から4年ぶりとなった新刊への思いや日々の創作活動について、小山田さんに聞きました。


作家 小山田 浩子さん 「日常の〝異常〟捉える」

0518_12_13面ワイド4.jpg

 ―新著の反響は。

 ここ4、5年で、複数の文芸誌に書いた短編を一冊にしました。15編もあるので、読者それぞれのお気に入りがあるようです。収録した作品の中で、「うらぎゅう」「動物園の迷子」「名犬」の三つを好き、と言ってくださる方が多いんですよ。

 ―どの作品も読み進めるうちに、いつのまにか日常から異界に足を踏み入れているような不思議な気分に陥ります。

 日常の中に異常が含まれていたり、日常そのものが異様だったりすると、日々思いながら過ごしています。例えば夏、ベランダなどに死んで転がっているセミのおなかを眺めていると、まがまがしく感じてしまったり。日常として処理しているシーンはよく考えてみたら異様だった、というような感覚を作品に生かしています。

 ―それぞれの作品には、ヤモリやヒガンバナなどの動植物が印象的に描かれ、日常から異様な世界へ橋渡しする役目を担っているように感じます。

 子どものころから、庭で虫やカエルなどの小動物をつかまえたり、植物を観察したりするのが好きでした。いつか見た虫や葉っぱなどの手触りの記憶や、その時の感情にアクセスして作品を紡ぐことも多くあります。

 ―夫婦や嫁しゅうとめ、といった関係の中に潜む異様さや不穏さを感じさせる作品もありますね。

 今を生きる女性は、私の母世代のように結婚して出産...といった大多数が乗るようなレールがなくなり、生きづらさを感じている人も多いと思います。一方で、結婚したら夫の両親ともいや応なしに家族になるなど、よく考えれば異様に思える人間関係の中に入っていきます。そういった中で、女性たちが抱く違和感も作品に投影させています。

 ―作品の舞台は、田舎や郊外の町が多いですね。地元の広島をイメージして書いているのですか。

 広島と特定して場所を描いているわけではないんです。登場人物の会話を、広島弁に近い言葉にしている物語もあるし、「...ちゅう」などの語尾が付く「どこでもない弁」を創作して会話を成り立たせている作品もあります。読者の皆さんが胸の中に抱いている「田舎」のイメージや風景と本の世界を重ね、身近に感じてくださっているようなのでうれしいですね。

 ―芥川賞を受賞した後の執筆活動は。

 娘が生後3カ月の時に受賞して、その後の約半年間は忙し過ぎて記憶がありません。授乳以外の育児を実家の母に頼んで、受賞記念のエッセーや取材対応などをこなしました。今は4歳になった娘が保育園に行った後の5、6時間を、執筆や読書の時間に充てています。それでも集中力が持続しなかったり、ペースがつかめなかったりと、子育てしながら自宅で仕事をするしんどさを感じています。息抜きは、娘を保育園に預けた後歩くこと。帰り道を少し遠回りして、「もうこの虫が活動を始めたな」「あのお宅のフジが咲き始めた」などと思いながら歩いています。
 子育ての中にも、やっぱり「異様さ」を感じる時があるんですね。幼いにもかかわらず、娘の中に15歳ぐらいの人間が入っているのでは、と驚くことがあって面白いです。そのような感情や体験が、作品になる時がくるのかなと思っています。

 ―作品を書く作業は楽しいですか。

 パソコンの前でああでもない、こうでもないと苦しみながら、ふとある1行を書いて「これで合っている」という時が突然、訪れます。あとはその感覚を信じて、走り続けるだけです。はまった瞬間の高揚感と、ぎゅっと圧縮されたような時間を味わいながら書いている時が、とても楽しいですね。

0518_12_13面ワイド4-2.jpg

 おやまだ・ひろこ 1983年広島市生まれ。広島大文学部卒。地元出版社や大手自動車メーカー子会社などに勤める傍ら執筆を始め、2010年、『工場』で新潮新人賞を受賞し、デビュー。13年には単行本「工場」で織田作之助賞、14年「穴」で芥川賞。


『庭』
 離婚の報告のために実家を訪れた女性が、祖父に導かれて謎の行事に参加する「うらぎゅう」、既婚だが子がない女性が渓流沿いの温泉で2人の老婆に出会い、その不思議な会話に引き込まれていく「名犬」など15編。新潮社刊。1836円。

0518_12_13面ワイド7.jpg