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危機的な現代 警鐘/小山田浩子の本棚掘り

 広島市在住の芥川賞作家・小山田浩子さんが、テーマに沿ったお薦めの一冊を月替わりで紹介します。
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【今月のテーマ】立ち止まって生活について考える一冊
『さあ、文学で戦争を止めよう 猫キッチン荒神 』
笙野頼子著

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危機的な現代 警鐘
 長く共に過ごした雌猫ドーラを看取り老猫ギドウ(本書カバーボーイ)と暮らす作家は難病患者、ただ、服薬していれば日々を過ごせる。本書は、日本の家庭の歪みが凝集したような家族関係を生き抜き論争に立ち向かいようやく手に入れた穏やかで幸せな居場所=自宅台所にて自分と猫のため安全な食材を使って食べたい料理を作り小説を書いて暮らす作家の「身辺雑記」だ。とはいえ普通の身辺雑記でないことは題名からもわかる。本書は台所を脅かす危機、人間が「お金や数字と見なされて数え上げられ」る世界経済の潮流への反旗でもある。
 ろくに審議も報道もされないまま進行する自由貿易の協定、TPPやFTAやEPAやらによる農漁畜産製造小売業への壊滅的影響、医療や保険や薬価の高騰に作家は警鐘を鳴らす。貧困や戦争は常にまず弱い庶民、病人老人障害のある人赤子幼児のいる家庭、中央から離れた地方を襲う。となれば彼女の台所も猫も、つまり私の台所もあなたの家族も無関係ではいられない。
 2017年刊の本書が予言した危機は現実となりつつある。福祉や人権より経済が優先され富者が潤い貧者が増えている実感、閉塞感や憎悪がヘイトや差別として噴出している実感を、あなたはお持ちではないだろうか? 地方の災害や困難(あの中国地方の、千葉の関西の熊本の北海道の東北の沖縄の)を伝える報道の少なさ無関心さに疑問を覚えたことは? 生産性が問われ、子供をつくらない労働できない家がない介助なしに生きられない人々を排除する論調や事件に不安は?
 疾走し跳び渦巻く唯一無二の痺れる文章に、未体験の読者は驚くかもしれない。立ち止まりつつでもどうか彼女の声を感じ考えてみてほしい。オリンピックに沸くだろう2020年日本で私たちは何を選ぶのか。読了の暁には『ひょうすべの国』『ウラミズモ奴隷選挙』(いずれも河出書房新社)もぜひ。